『死墓島の殺人』(大村 友貴美著)を読みました。
物語の展開は、古い歴史情緒の中で本家と分家、田舎と都会、郷土史と絡めた見立て殺人など・・・横溝正史の小説が好きなかたにはピンときそうなキーワードがたくさん出てきます。
事件の流れとしてもシリーズ通じて、金田一のような名探偵は出てこないのですが、一応、地元警察の警部補とその部下が中心となって事件を解決していきます。そのため、探偵側の心理描写というより、警察という組織の中でもがく刑事の葛藤が描かれています。
本作について、内容をシンプルにまとめると、東北地方にある歴史的に鎖国化した島内で起こる猟奇的連続殺人事件を探偵役である藤田警部補(とその部下)が、本土とを行き来しながら解決していくというストーリーです。事件が起こる島というのが、現代でいう限界集落(人口の50%以上が高齢者)で、島に残っているのは古くから続く3つの家の子孫で占められており、食べていく手段は漁業しかなく、また、本土との連絡手段は一日に3回の定期便しかないという、地理的にもテクノロジー的にも色々な面から取り残された島です。
作者はこの手の、「現代における過疎集落の風情」を描写するのがうまく、これは横溝正史大賞を受賞した前作『首挽島の殺人』でもそのうまさが出ています。
町の中には高齢者しかいない、携帯電話の電波も届かない、ネットもない、古くからの言い伝えがいまだに信じられているなどなど・・・・。
こういった感じが大好物なミステリ好きにはたまらんと思います。
ここからは若干のネタバレにはなりますが、この島の成り立ちや郷土史が関わりながら事件は展開していくのですが、結果的にトリックやら殺しの動機やらが全くそれらに絡んでこないのは残念というか拍子抜けしました。読者は犯人がわかる最終的な段階でそれを知るのですが、これまで色々と刑事が地元民に嫌われながら調べてきたまちの歴史、言い伝えが直接的に殺人に絡んではこないのです。せっかくここまでドロドロした世界観を作り出したのだから、何か関わらせましょうよ、と。
逆に考えると、本作の事件の(直接的ではないものの)きっかけが出会い系サイトということを考えると、皮肉をこめたアンチテーゼなのかもしれないと勘繰ってしまう・・・。
あと、作者は女性の表と裏の心理を描くのが上手いと思います。本作の犯人はとある女性なのですが、地の文では、村の住人からも好印象で真面目な人柄が描かれているのですが、裏の顔は実は・・・といった感じです。犯人の人格のせいで、関わった人たちは悲劇へと突き落とされていくのですが、読み終わった後の彼女に翻弄された男たちの呟きを読むと・・・・なんとも言えない気持ちになります。