僕の読書の作法

僕はいささか内向的な性格であるために、人付きあいが決してよいとはいえません。ここ数年、飲み会でワイワイガヤガヤして仕事の愚痴や上司の悪口などを軽口を叩きながら仲間と談笑することはなかったし、仕事のない日では、人と乗り合わせて趣味を楽しんだり、何か共同で楽しんだりすることも記憶に数えるぐらいです。

 

最近もっぱら幸せを感じる瞬間といえば、仕事終わりにコーヒーを飲みながらささやかな趣味である読書(特に推理小説)をすることぐらいであります。

 

最近では、乱歩の傑作選をブックオフで安く買って、帰り道にあるマクドナルドに寄って、2時間ばかしで読み切りました。家で読むのももちろん楽しいのですが、だいたい店に寄るのは夜遅くになってからなので、人がまばらな雰囲気と相まって、すこぶる読書が捗りやすいのです。また、いつもとは違った環境で読書をすることが、不思議と頭に残りやすく、本に書き連なれた文字がどんどん染み渡るような感覚で頭に入っていきます。

 

読書をするときは大体音楽を聴いています。もちろん主が読書なので、聴く音楽があまり邪魔にならないよう、ジャズやクラシックなど歌がないものにしています(たまに音楽が勝ることもあり、この良い曲を演奏しているアーティストの他のCDが気になってネットで検索してしまうことも多々あるのですが・・・)。

 

読書をするときは、極力スマホには触らないようにしています。これは重要なことですが、初めて読む本の「読書体験」は二度と味わえない崇高なものです。ほとんどの人にとって同じ本を読み返すことは、よほどの傑作でない限り稀有なものだと思います。また、読み返すとしても何ヶ月後、何年、何十年後の機会が大半です。登場人物の心理描写や、文字を通じてあらわになる物語の感触、風景、ミステリーであれば謎を解くために重要な表現など、一度逃してしまうと再び味わうことは難しい貴重な体験を、読書の途中のスマホいじりが一瞬で断ち切ってしまうのです。スマホを通じて得られる情報は別に読書中でなくとも容易に得ることができます。対して読書体験は上記のとおり、大変貴重なものであり、できればスマホの電源などは切ってしまい、読書の世界に没入することをオススメします。

 

読み終わった本は、できればなんらかの方法でその内容や感想をできるだけ簡潔な方法でまとめておくことが好ましいと思います。本を読んで得られた体験は大変貴重ですが、読み終わってすぐに別の読書体験に移るのでは、なんだか使い捨てのような感じがして勿体ないと思います。読み終わった本のあらすじと、どういった点に興味を覚えたか記録をすることで、振り返った時にその本の内容、読んだときに感じた印象がいつでもどこでも引き出せるようになり、読書の世界をさらに引き伸ばすことができるでしょう。記録をするときに心がけることは、読み終わったらなるべく早めにまとめておくということです。人の記憶力は日に日に減退するものであったり、かつ、脳へ入ったり出たりする情報というのは日を追うごとにどんどん変化していきます。本を通じて得た体験ができるだけ形を変えないうちに自分の言葉で文章化してしまいましょう。

 

最後に、少し批判があるかもしれませんが、読む本はなるべく人からの評価が高いものを選んでいます。もちろん、「この本を読んでみたい」という自身の直感に身を任せて選んでも良いと思うのですが、多くの人が評価するものは大概、自分が読んでも良い評価となるはずです(性別、環境など多少の差こそあれ、文学作品のような何かの思想に触れたときの反応は、人の「つくり」においてそう差はないはずだからです)。物質的ではありますが、本を読むとはそれだけ時間を費やす行為です。ましてや本の購入という経済的な犠牲も払っているわけです。なので、読み終わったあと、こうした犠牲を払ったかいがあったと思えれば思えるだけ良い読書体験を成したといえます。より網羅的に、多角的に読書を楽しみたいというのであれば、基本的には巷での評価が高い本から読破していき、おおかたの整理がついた頃合いで自分の興味関心のまま乱読することもいいでしょう。